第2話 危うさ
開け放たれた窓から流れ込む風が、緑の香りを運んでくる…-。
ドローレ「これ、チルコに昔からある絵本なんだよ」
ドローレくんが取り出した絵本には、かわいらしいウサギが描かれていた。
〇〇「かわいい絵本だね」
ドローレ「キミって大人なのに、こういうのが好きなの?」
ドローレくんは、あどけない瞳で私の顔を覗き込んだ。
ドローレ「これを読めば、いたずらウサギのパーティがどんなものか、わかるよ」
〇〇「うん」
私は優しい色彩で描かれた絵本に視線を落とす。
そこには、いたずら好きのかわいらしいウサギの物語が綴られていた。
(ドローレくんが持っている物にしては、かわいらしいな)
ほっとしながらページを進めると、私の横でドローレくんが絵本を覗き込む。
彼の吐息がふわりと私の髪を揺らして、ドキッとしてしまった。
ドローレ「この、おばあちゃんって、大人でしょ?」
彼が指差したのは、いたずらウサギに優しく話しかける老婦人の挿絵だった。
ドローレ「珍しい大人だよね。キミみたいな人かな」
物語で、優しい老婦人と過ごしたウサギはいたずらをやめ、代わりにお菓子を届けるようになる。
ドローレ「だいたいは、こっちだよね」
彼は無邪気な笑顔を浮かべながら、ページをめくった。
そこには、ウサギを邪険に扱った地主が落とし穴にはまって悲鳴を上げている様子の挿絵が描かれている。
(優しい老婦人と、意地悪な地主……)
二人の大人がそれぞれたどった道を、考え込んでしまっていると……
ドローレ「この落とし穴、ボクだったら底にいろいろ仕掛けるんだけどなあ」
ドローレくんが、目を輝かせて楽しそうに笑った。
ドローレ「あ、そうなると、ボクが落とし穴にハマらなきゃ」
(やっぱりそこは自分で体感したいんだ……)
よく見ると、挿絵の落とし穴には鋭い杭のようなものが描き足されている。
(これって……まさか)
〇〇「ドローレくんが描いたの?」
ドローレ「なんか、物足りなくてさ。ハマったら痛いのかなあ」
その痛みを想像しているのか、ドローレくんは恍惚とした表情を浮かべている。
〇〇「……」
うっとりとした彼の表情に、何も言えないでいると……
ドローレ「ダメかあ」
私の心境を察したのか、彼は絵本のページを閉じた。
ドローレ「この絵本みたいに、皆でウサギになって、昼間はエッグタルトやお菓子を食べるパーティ。 で、夜は楽しいいたずらをするんだよ」
〇〇「楽しそうなパーティだね」
ドローレ「うん。いたずらウサギだからね♪ ちょっとゾクゾクするようないたずらを考えてるんだ」
彼の後ろで、拷問器具のようなインテリアがぎらぎらと輝いている。
(……心配だな)
楽しそうに笑うドローレくんを見つめて、私は少しだけ不安になった…-。
- 最終更新:2017-04-22 07:00:03