第3話 温かな物語
優雅なピアノの音色が響く中…―。
私は、目の前の豪華な食事よりもカゲトラさんが気になっていた。
(カゲトラさんの絵本って、どんな作品なんだろう)
歳の離れた妹のイブキちゃんに微笑む彼を見つめ、想像してみるものの……
(……駄目だ。全然思い浮かばない)
そんなことを思っていると、イブキちゃんと目が合った。
イブキ「おにいちゃんね、マーグレットって名前で、いっぱい絵本かいてるんだよ」
カゲトラ「イブキ」
カゲトラさんは、それ以上言うなという目でイブキちゃんを見る。
イブキちゃんはかわいらしく舌を出して、肩をすくめた。
国王「カゲトラは現在、絵本を専門に執筆していますが……
以前は私の書くハードボイルド小説に、かなり影響を受けていたのですよ」
(確かにそっちの方が、イメージとは合うような……)
王妃「カゲトラの格好も、その影響なのよ。ふふふ」
○○「そうなんですか?カゲトラさん」
カゲトラ「……まあな」
彼は私と視線を合わせずに、短く答える。
王妃「カゲトラは、さまざまなジャンルの小説を書いていたの
この国の王子として、幅広い知識を身につけるためにね
見た目は怖そうだけど、とても頑張り屋さんで、城の皆に慕われているのよ」
誇らしげに微笑む王妃様の横で国王様は何度も頷く。
そんな二人を前に、カゲトラさんは気まずそうな顔をしながら水を飲んでいた。
(でも、どうして絵本を描くようになったんだろう?)
疑問に思っていると、カゲトラさんが静かに立ち上がった。
カゲトラ「……来い」
○○「えっ?」
カゲトラ「たいしたものはないが、城を案内してやる」
○○「……あ、はい」
イブキ「まって。私、もっとおねえちゃんと遊びたい!」
(イブキちゃん……)
カゲトラ「だがイブキ、お前はそろそろ……」
イブキ「ねえ、おねえちゃん、イブキのお部屋で絵本読んでよ。おにいちゃんの絵本」
イブキちゃんは私の手を掴んで目を輝かせている。
【選択】
→うん、いいよ 太陽
私でよかったら 月
○○「うん、いいよ。カゲトラさんいいですか?」
カゲトラ「……○○がいいなら、俺は別に……」
カゲトラさんは、嬉しそうに笑うイブキちゃんに目を細めた。
私はイブキちゃんと手を繋いで、彼女の部屋へと向かう。
…
……
私はイブキちゃんの部屋で、カゲトラさんが描いた絵本の読み聞かせをしていた。
○○「『青い鳥は、流れる星の中を飛び続けました』
『そうして青い鳥が捕まえた流れ星を、お友達の熊はいつまでもいつまでも大切にしたのでした』」
(『ふたりのながれぼし』、素敵な絵本だな……)
温かい気持ちで本を閉じると、私の横でイブキちゃんが小さな寝息を立てている。
(いつの間にか寝ちゃってたんだ……)
眠るイブキちゃんに、カゲトラさんがタオルケットをかけた。
○○「……私、マーグレットさんのファンになりました」
カゲトラ「お世辞はいい。大人にはつまんねえだろ」
【選択】
→お世辞じゃありません 太陽
そんなこと言わないで…… 月
○○「お世辞なんかじゃありません。こんなに温かい気持ちになれるお話は初めてです」
カゲトラ「……やめろ。面と向かって言われるのは慣れてねえ」
カゲトラさんは照れたように頬を緩め、うつむいた。
カゲトラ「俺の絵本は子どもや、そいつらの親には好評みたいだが……
それ以外には『ご都合感満載の所詮は子ども騙しの作品』って言われてる」
自嘲気味に笑うカゲトラさんに、胸が痛む。
○○「そんなこと…―」
私の言葉は、突然響いたノックの音に掻き消された。
カゲトラ「ああ。先生が来たみたいだな」
○○「先生?」
カゲトラ「イブキの主治医だよ」
(え……?)
その言葉に、私の心臓がどくんと音を立てた…―。
- 最終更新:2017-07-23 13:51:54