第4話 幼い記憶
野良猫が陽だまりで、のんびり毛づくろいをしている…-。
材料を揃えた私達は、城へ戻るため穏やかな道を歩いていた。
(あの調味料、本当に使うのかな)
心配になって、ドローレくんが抱えた袋を見てしまう。
ドローレ「あ~、早く痛いミートボールが食べたいなあ」
(……やっぱり)
弾むような足取りで歩く彼を見て、私はずっと気になっていたことを尋ねてみた。
〇〇「……どうして、そんなに痛いのがいいの?」
ドローレくんは驚いたように、目を丸くする。
ドローレ「そんなふうにはっきり聞いてきたの、キミが初めてだな」
〇〇「あ……」
ドローレ「ま、いいけど」
(やっぱり失礼だったかな)
ドローレ「だってさ、怪我した時って痛いんだけど、ちょっとゾクゾクすることない?」
さらりと言ってしまうドローレくんの横顔は、全く知らない男の子のように見えて少し怖くなった。
〇〇「……」
ドローレ「わかんないか」
彼の瞳の奥が寂しそうに揺れる。
〇〇「ごめんね」
ドローレ「謝らないでよ。わからないって人ばっかだし」
さも当然というふうに笑うドローレくんは、私のことを気遣ってくれていた。
〇〇「今はわからないけど、わかりたいなって思ってるの」
ドローレ「あははっ、やっぱキミって、面白い大人だね」
ドローレくんは笑うと、空を見上げた。
青空に薄いレースのような雲が流れている。
ドローレ「まだ両親がいて、この国に大人がいた頃……ボク、小さい頃は一人で遊ぶのが好きだったんだけど。 その時に、お父さんとお母さんの仕事道具で大けがしたんだよ。あんまり覚えてないんだけど」
〇〇「大丈夫だったの?」
ドローレ「うん。心配して大慌てする大人の中で、ボクは笑ってたんだって。だから体質? なんじゃない?」
(そんなことって……)
どう反応していいかわからず、私はただドローレくんを見つめた。
ドローレ「心配そうな顔されるのも結構好き。あの時も皆がそんな顔してたのかな」
そう言って、彼は柔らかく私に笑いかけて……
ドローレ「今のキミの顔も好き」
不意に放たれた好きという言葉が、私の胸を刺激した。
〇〇「……え?」
ドローレ「痛いとゾクゾクのバランスって、結構難しいし……。 死ぬのはやだなって思うから、そういう意味では心配しなくていいよ」
〇〇「うん……」
ドローレくんなりにちゃんと考えていることを知って、安堵の思いが込み上げる。
ドローレ「モルタ兄さんのが危ないんじゃないかなあ?」
(確かに……否定できないところはあるけど)
チルコの第一王子のモルタさんは、独特の死生観を持っている。
〇〇「でも…-」
ドローレ「あ! すっかり時間が過ぎちゃったよ! 早く帰って準備しよう」
明るい彼の声が、私の言葉を掻き消した。
〇〇「……うん」
急かされるように足を速めて帰路を歩く。
(痛み以外の何かで、少しでも楽しませてあげられたらいいんだけど……)
先を歩く彼の背中を見つめながら、私は思いを巡らせていた…-。
- 最終更新:2017-04-22 07:04:35