第5話 ハルの本音

ハルのもとから逃げ出してしまい、気まずくなってから、数日が経った…―。
従者さんにおもてなしを受けている間も、気づくとハルのことばかり考えてしまっていた。


ハルディーン「もしかして……オレが他の女といるのが嫌なのか?」

○○「ち、違うよ!」

ハルディーン「そんなに恥ずかしがることない。こっちへ来い」

○○「恥ずかしくなんて……ない」

ハルディーン「あ、シュガー……!」


(せっかくお城に招待してもらってるのに、こんなことじゃ駄目だ)
(あんな態度を取ったことを、きちんと謝ろう)

そう奮起したものの、城中を探してもハルの姿が見当たらない。

○○「……すみません。ハルディーン王子はどちらに?」

メイド1「ハルディーン様は、ここ数日間お帰りになっていません」

○○「え、数日!?」

メイド2「王子は自由なお方です。こんなことはしょっちゅうですわ」

(そうなんだ……)

と、その時ちょうど、遠くから声が聞こえてきた。

国王「ハルディーン! ハルディーンはどこだ?」

(王様も捜してらっしゃるみたい)

メイド2「ハルディーン様は少々出かけておりまして……」

メイドさんが歯切れの悪い返事をするのが、わずかに聞き取れる。

国王「あいつはいつまでもふらふらしおって……こんなことで、国王になれると思っているのか!」

その時…―。
突然口を塞がれ、抱き寄せられるように廊下の隅に連れていかれた。

(だ……誰……!?)

ハルディーン「オレだ、シュガー」

慌てて抵抗しようとすると、聞き慣れた声が耳元で囁かれる。

○○「ハル…―!」

声を出そうとすると、ハルは私の唇に人差し指を当てた。
少しだけひんやりとした指先の感触に、きゅっと胸が切なくなる。

ハルディーン「こっちに来い」


……

そして、ハルの部屋にたどり着くと…―。

ハルディーン「久しぶりだな、シュガー」

○○「うん……」

ハルは、まるで何もなかったかのように、屈託のない笑顔を浮かべている。

○○「どこに行ってたの?」

ハルディーン「ダジルベルクっていう国。ほら、これお土産」

ハルはそう言うと、綺麗な形をしたガラス瓶を私に渡してきた。

○○「これは……紅茶の葉?」

ハルディーン「そ! オレの国の紅茶も美味いんだけど、そこの国のもけっこういけるんだぜ」

○○「……ありがとう、ハル」

ハルディーン「何だ、元気ないな。どうした?」

○○「……」
○○「前は、ごめんなさい。せっかくハルが誘ってくれたのに」

言葉に詰まりながらも、ハルの瞳を見つめて謝ると、彼は優しく微笑んでくれた。

ハル「なんだ、そんなこと気にしてたのか」

そう言って私の頭の上に手をポンと置く。

ハル「それでオレを捜してくれてたのか?」

○○「ど、どうしてそれを…―」

ハル「メイドに聞いた。悪かったな」

○○「ハル、ずっといないから。国王様もハルを捜してたよ」

ハル「……」

○○「ハル?」

深いため息を吐くと、ハルにしては珍しく神妙な面持ちで、ぽつりぽつりと話し始めた…―。

ハルディーン「最近、オヤジがうるさくなってさ……」

自由が好きなハルを、両親はずっと尊重してくれていたようだ。
けれど……
このところは、次期国王としての自覚を持つようにと、口うるさくなってきてしまった。

ハルディーン「オレに、国なんか統治できるわけないんだ。しっかりできるもんならとっくにしてる」
ハルディーン「オヤジだって、第一王子のオレを跡継ぎにしたいから、躍起になってるだけで……」

○○「そんなこと…―」

ハルディーン「自由がいいよ。オレは、こんなふうにしか生きられない。オレには王様なんて無理だ」
ハルディーン「いろんな奴らと笑い合って、自由に過ごすのが好きなんだ」

拗ねた、強気な口調ながらも、どこか悲しそうで胸が苦しくなる。

(ハル……)

私は思わず、ハルの手に触れた。

ハルディーン「……シュガー?」


~太陽~

○○「ハルは王様になれると思う。だって、いろいろな人に慕われているし」

ハルディーン「慕われているだけじゃ、国なんて治められない」


~月~

○○「確かに……ハルには自由が似合うかも」

ハルディーン「だろ? 国にずっといるなんてオレには無理だ」


~共通~

(でも……)


村人1「あ、ハルディーン様!」

村人2「ハルディーン様、お元気そうで。またうちの紅茶、飲みに来てくださいよ!」


この城へ向かう道中、ハルが歩く度に、いろいろな人が笑顔で話しかけてきたことを思い出す。
そして、二人きりの草原で私が自然に笑顔になっていたことも…―。

○○「でも、ハルが王様の国って楽しそう」

ハルディーン「……えっ?」

○○「私、まだこの国に来てちょっとしか経ってないけど」
○○「ハルと一緒に出会った人達、皆笑顔だった」
○○「私も実は、ハルって王子らしくないなって最初会った時思ってたんだけど」

その言葉に、ハルが困ったように眉尻を下げる。

○○「けど、だからこそどんな国になるんだろうって、思うんだ」

ハルディーン「シュガー……」

○○「ハルが王様だったら、きっとハルらしい笑いの絶えない幸せな国になるんだろうなって……」
○○「私はそう思うよ」

ハルの顔を見つめながら、正直な気持ちを伝える。

ハルディーン「オレらしい国……」

○○「うん」

ハルディーン「……政治とかがちゃらんぽらんになるかもしれないぞ?」

○○「そ、それは…―」

ハルディーン「ハハッ。正直な奴……でも」
ハルディーン「そっか……そういうふうに考えたことなかったな……」

ハルの力強くて大きな手が私の手を握り返した。

ハルディーン「オマエ、不思議な奴だな」

まだ迷いは残っているような瞳だけれど、じっとまっすぐに見つめる瞳は、美しく輝いていた…―。


つづく……






  • 最終更新:2017-02-22 23:33:05

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード