第7話 彼の背中
人気のない大通りに、雨を弾いて走る二人の足音が響く…-。
吹きつける雨風に煽られ、店先の看板が音を立てて揺れていた。
ヘラクレス「雨、きつくなってきたね。大丈夫?」
〇〇「うん……!」
大粒の雨に視界はかすみ、目を開けていられないほどだった。
ヘラクレス「おんぶして走った方が速いかなぁ。 〇〇ちゃん、しっかり捕まってて」
(えっ!?)
目の前にしゃがんだヘラクレスが、私を素早く背負ってくれた。
〇〇「ヘラクレス!?」
ヘラクレス「もうすぐ城に着くから、頑張って!」
ヘラクレスの逞しい背中や、体温をすぐ傍に感じ……
彼の背中におぶさりながら、胸が痛いほどに鼓動を刻む。
(お城には戻りたくなさそうだったのに……)
私のために、迷わず走ってくれるヘラクレスの優しさに心打たれていた。
城にたどり着くと、侍女の方達が静かに駆け寄ってきた。
女官「ヘラクレス様、すぐにお着替えを」
ヘラクレス「オレは大丈夫だから、彼女を部屋に案内してあげて」
ずぶ濡れのヘラクレスは、そっと私を降ろして侍女の方に引き渡す。
〇〇「ヘラクレス……」
ヘラクレス「この雨だと、流星群は見られそうにないね。残念だけど……」
そう言いながら、ヘラクレスは伏し目がちに濡れた髪を掻き上げた。
(あ……)
その仕草に惹かれ、一瞬目が逸らせなくなる…―。
ヘラクレス「キミと過ごせて、すごく嬉しかった」
ヘラクレスは静かに微笑んで、私と視線を絡めた。
(なんだか、普段のヘラクレスと違って見える)
雨に濡れた艶っぽい瞳に見つめられ、胸がドキドキと高鳴った。
ヘラクレス「それじゃ、お風呂でちゃんと温まってね」
〇〇「うん……ありがとう」
(どうしてだろう……なんだか少し、胸が苦しい)
雨に濡れた彼の背中を見送りながら、心が甘く切なくなるのを感じていた……
…
……
翌朝……
窓にコツンと何かがあたる音がして、目が覚めた。
(え……?)
急いでベッドを降り、窓を開けると……
ヘラクレス「……」
風に揺れる金の髪が、朝日に透けて柔らかな光を放っていた。
(ヘラクレス……!)
ヘラクレス「〇〇ちゃん、早く庭に降りておいで」
早朝の庭園に立ったヘラクレスが、笑顔で私を手招いた…-。
- 最終更新:2017-04-24 02:46:40