第3話 いろいろな顔
舞踏会の会場に到着すると、優雅な弦楽器の演奏が私達を出迎えた。
ふと見上げると、色鮮やかな天井画に圧倒され、思わず息を呑む。
(こんな立派なところで、ちゃんと踊れるかな)
不安が込み上げ、思わず胸元を握りしめていると…-。
メディ
「おや、緊張しているのかな?ハニー」
優しく弄ぶように、メディさんの指先が私の頬を摘まむ。
○○
「はい……少し」
メディ
「大丈夫、心配はいらないよ。ハニーはボクに体を預けていたらいい」
私の耳元にそっと顔を寄せて、メディさんが優しい声で囁いた。
触れる息のくすぐったさに、私の頬が熱くなる。
メディ
「さあ、今日だけの特別な時間を楽しもう」
(今日だけの?)
その言葉に、わずかな引っ掛かりを覚えるけれど……
それがなんなのかわからないうちに、会場にワルツが流れ始めた。
…
……
メディさんの腕に支えられて、私は一歩ずつ足を前へと踏み出す。
メディ
「ハニー、怖がらずに自由に足を前に出して」
○○
「はい……!」
メディさんは、私を包み込むようにリードしてくれる。
(楽しい……!)
メディ
「芸術的なダンスだよ!ワルツの曲が愛らしいハニーにぴったりだね!」
○○
「メディさんのおかげです」
逞しい腕に抱かれながら、私はそっとメディさんを見つめる。
不意に視線が重なり、メディさんが私に問いかけるように笑いかけた。
○○
「こんなに上手なんて……」
思わずそう言ってしまい、私は慌てて口をつぐんだ。
メディ
「ハニー?」
(失礼だったよね)
メディさんは私の顔を覗き込み、優しく瞳を細めた。
メディ
「ダンスは芸術的だからね!小さい頃からよく習っていたんだ」
煌びやかな装いの人々の間を、メディさんは私を連れて、迷いなく進んでいく。
(やっぱりメディさんって不思議)
まだ知らないメディさんの一面を見られた気がして……
メディ
「何か考えごとかな?」
思わず黙り込んでしまった私を見て、彼が首を傾げる。
○○
「すみません」
メディ
「謝ることはないよ!」
メディ
「それに……ボクのことを考えてくれているのなら、嬉しいじゃないか」
私の言葉を待つかのように、メディさんが私を見つめる。
○○
「なんだか、いつものメディさんと違う気がして……」
メディ
「いつものボク?」
彼の瞳が数回、瞬く。
そして…-。
メディ
「いつものボクとは、芸術の追求者としてのボクかな?」
メディ
「それとも、一緒に旅をする頼もしいボクかもしれないね!」
メディ
「それとも……キミを好きなボクかい?」
○○
「……っ!」
メディさんが、おどけるように目配せする。
○○
「メディさん……」
メディさんはふっと優しく微笑み。私の額に自分の額をあてた。
メディ
「せっかくの舞踏会だからね。たまには違ったボクも見てほしくて……」
メディ
「……キミを、驚かせてしまったかな?」
○○
「いえ……」
不意にメディさんとの距離が近づき、頬が熱くなっていく。
(ダンスに誘われたあの時と同じ感覚……)
目の前にいるメディさんは、確かにいつものメディさんなのに……
(どうして、こんなに胸が切なくなるんだろう)
彼の心を知りたくて、瞳をまっすぐに見つめる。
メディ
「月と一緒だよ、マイスウィート!誰にも見せない裏側もあれば……」
メディさんの腕の中で、私の体がくるりと反転する。
○○
「わっ……!」
息つく間もなく、また体がくるりと反転して、メディさんに抱きとめられる。
メディ
「こうやって、いつものボクもいる」
視線が重なり合い、胸の奥が甘くうずく。
メディ
「ボクは無限なのさ」
そのいたずらっぽい瞳の奥にあるものが、知りたくてたまらなかった。
○○
「……なら私は、もっといろんなメディさんを見てみたいです」
メディ
「……」
メディさんの足が止まり、音楽がゆっくりと終わりへと向かっていく。
○○
「メディさん?」
私を見つめる彼の瞳が、わずかに揺れている。
メディ
「ちょうど曲が終わったようだね」
一度瞳を伏せると、メディさんが口元に薄い笑みを浮かべる。
初めて見る彼の表情を、私はただ見つめ返すことしかできなかった…-。
- 最終更新:2018-02-24 18:14:23